飲食店の店舗売却を徹底解説。居抜き売却の方法や相場、税金と仕訳のポイントは?
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飲食店の店舗売却とは、一般的に「居抜き売却」を指します。店舗売却は、有効な撤退方法として浸透しているものの、全体の流れとポイントを事前に把握しておくことが大切です。そのため飲食店の店舗売却で満足のいく結果が得られるよう、方法や相場などポイントを解説します。
店舗売却でおすすめの方法は「居抜き売却」
飲食店の店舗売却の方法には、設備や厨房、内装などをそのままの状態で店舗を売却する「居抜き売却・造作譲渡」、事業のすべて、あるいは一部を新しいオーナーに譲る「事業譲渡」、法人の場合は「株式譲渡」があります。後継者を育てて味の継承をしたい場合は、5〜10年の期間を使い事業譲渡をする必要があります。しかし、閉店し、物件を手放したい経営者にとっては「居抜き売却・造作譲渡」がおすすめの方法です。
造作譲渡とは、居抜き売却の一種。前の店舗のオーナーが使用していたテーブルや厨房設備、什器備品、電話、レジスター、食券販売機などを新オーナーに譲渡することをいいます。電気、空調、排気ダクト、給排水といった工事により整備するものも対象。譲渡の内容や造作譲渡料は売り手と買い手で交渉し、売り手はその売却代金を受け取ることができます。造作譲渡がつくと、買い手を見つけやすくなりますし、大家や管理会社と解約予告期間の家賃の支払い免除の交渉をしやすくなります。
店舗売却で居抜きを選んだ際のメリット・デメリット
居抜き売却の売り手側の最大のメリットは、費用面でしょう。営業していた店舗をそのままの状態で売却するため、スケルトン工事も設備の処分費用も不要。さらに、造作譲渡による店舗資産の資金化が期待できます。
【シミュレーション】
・賃料20万円
・保証金240万円
・解約前予告家賃120万円(20万円×6カ月)
・原状回復費用80万円
・保証金償却費40万円
・造作売却代金80万円
退時の受取金額=保証金-(解約前予告家賃+原状回復費用などの撤退費用+保証金償却費)
□スケルトン工事をするケース
解約前予告家賃(通常6カ月)、原状回復費用と償却費が発生。
撤退時の受取金額=240万―(120万+100万+40万)=-20万円
→20万円の支払いが発生する
□居抜き売却をするケース
造作の売却代金が入る。
退去時の受取金額=240万-(0+0+40万)+80万=360万円
→360万円の売却代金が受け取れる
居抜きでの売買は、買い手にもメリットがあります。店舗と設備を手に入れることで初期開業費用を削減できますし、営業開始までの期間を短縮することもできます。そのため、居抜き市場は非常に活発です。ただし、賃貸借契約書には原状回復義務と造作譲渡の禁止が記載してあるのが一般的。大家や管理会社の了承を得ることが欠かせません。とはいえ、近年では交渉に応じてくれるケースが増えているため、契約書を確認した段階で諦める必要はありません。
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データで見る、業種別店舗売却の相場
実際にはどういった取引が行われているか気になる方は多いはず。
飲食店ドットコムに直近1年間で掲載された物件を集計して算出した、地域ごとの平均の造作譲渡額の一部を抜粋します。
(※店舗賃料相場は募集金額であり、成約金額とは異なります。地域…平均坪単価/最高坪単価/最低坪単価の順に記載。)
【東京都】
千代田区…28,764円/99,174円/9,226円
中央区…34,146円/99,000円/4,021円
渋谷区…39,054円/99,414円/7,295円
武蔵野市…29,202円/99,000円/4,678円
立川市…21,640円/43,093円/6,985円
【千葉県】
中央区…13,107円/34,810円/3,479円
船橋市…18,401円/58,861円/4,760円
【埼玉県】
浦和区…22,112円/55,000円/5,201円
大宮区…22,714円/97,362円/6,188円
【神奈川県】
中区…19,376円/64,096円/3,575円
鶴見区…14,909円/32,402円/4,132円
数字からは相場には地域差が出ることが分かります。とはいえ、条件次第では高額な取引ができることもあるでしょう。
店舗売却で高額査定のポイントは?
店舗の査定額には、新しさや古さが影響すると思われがちですが、重要なのは「需要があること」です。具体的には以下の項目がポイントになります。
・集客しやすい立地にあるため人流があり、視認性が良好
(例:駅周辺や繁華街に店舗がある、1階路面店である、幹線道路沿いで駐車スペースが十分にあるなど)
・形状・間取りが一般的で、幅広い業態で使える汎用性がある
・買取ニーズが高い業種、業態である
・買取ニーズが高い店舗サイズである。近年は10~20坪程度が好まれる傾向
・利便性のある設備がそろっている
・設備の状態が良い、または手入れが行き届いている
さらに、帳簿上の評価額や中古市場価格を鑑み、金額が決定します。
また、解約予告を出していないことも大切です。解約予告を出してしまうと退去日が決まり、買い手を探す期間が限られるうえ、買い手との交渉上不利になることも考えられます。
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店舗売却では会計処理もともなう
居抜き売却は資産を売ってお金を得ることでもあるので、会計処理をしなければなりません。その際、事業所得と譲渡所得に区分けをするため、造作譲渡契約書には「居抜き設備一式」や「造作一式」とまとめて表記してはいけません。譲渡する設備、備品等をすべて書き出してください。
個人事業主と法人とでは処理が異なります。個人事業主が押さえておきたい事業所得と譲渡所得の考え方は、次の通りです。
・食器類、椅子やテーブルなどの家具、レジやレジ用タブレットなど、消耗品や一括償却資産は「事業所得」に計上
・店舗の空調・照明、電気設備など、固定資産として減価償却されるものは「譲渡所得」。なお譲渡収入は、消費税の課税対象になります。
居抜き売却後に支払う必要がある税金は?
資産を売ってお金を得れば、税金も関わります。売り手が個人の場合、譲渡所得税や印紙税がかかります。消費税の課税事業者の場合には、消費税の納付も必要です。
■譲渡所得税
ものを売って所得を得たときにかかる税金。「ものを売って得た収入金額-売ったものを購入するなどしてかかった金額(取得費、必要経費)」で大枠の計算ができます。利益が出なかった場合、所得税はかかりません。
譲渡所得税額は、総合課税か分離課税、いずれかの方法で計算します。
土地、建物を譲渡した場合の譲渡所得は分離譲渡、土地、建物、株式以外を譲渡した場合の譲渡所得は総合譲渡になります。厨房設備等は建物の付属設備ではないため総合譲渡で、総合課税。総合課税の所得税の計算は、「課税所得」に税率を乗じて算出し、冷暖房設備や照明設備など建物と一体化している設備は分離譲渡で分離課税に区分します。
譲渡所得税は、所有期間も影響します。所有期間が5年以下であれば短期譲渡所得として課税され、約39%。所有期間が5年を超えると長期譲渡所得となり約20%です。なお、所得税や住民税の一部として徴収されます。
■消費税
納税の義務は課税事業者のみ。譲渡収入は消費税の課税対象であるため、消費税を含めた売却価格を設定することで売却後の税金の支払いに困らなくなることも頭に入れておきましょう。
■印紙税
契約書やその他の文書に対して課される税金。契約書や領収書などの文書に収入印紙を購入して貼り付けると、納税の証になります。
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店舗売却の流れを把握し、安心して居抜き売却を
居抜き売却をすると売却益を得られる可能性あるため、撤退後の生活や再スタートを考えても有効な方法といえます。納得の行く結果を得るには、売却を検討しはじめたら、早い段階で専門家に居抜き売却の相談を開始することが大切です。プロの目線でアドバイスをもらえるだけでなく、広範囲から買い手を募ることができ市場価値に見合った金額で売却しやすくなるでしょう。